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浦和地方裁判所 平成6年(行ウ)17号 判決 1998年3月23日

原告

共和建設株式会社

右代表者代表取締役

村山登一

右訴訟代理人弁護士

城口順二

牧野丘

被告

埼玉県知事

土屋義彦

右訴訟代理人弁護士

関口幸男

右指定代理人

松本道房

外二名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

埼玉県知事が原告に対してした平成五年三月三一日付け建指第二五三六号の不許可処分を取り消す。

第二  事案の概要等

一  事案の概要

本件は、原告が別紙記載の各土地(以下「本件土地」という。)上に産業廃棄物処理施設(焼却炉)を設置することを企図し、被告に対し、建築基準法(以下、単に「法」という。)五一条ただし書による許可の申請(以下「本件申請」という。)をしたところ、被告が右産業廃棄物処理施設の敷地の位置は都市計画上支障があるとして不許可処分(以下「本件処分」という。)をしたので、原告が右処分の取消しを求める事案である。

二  当事者間争いのない事実

1  本件申請

原告は、本件土地上に廃棄物処理施設を設営する企画を立案し、平成四年九月ころから、被告との間で事前審査手続を開始し、平成五年二月一八日、被告に対し、法五一条ただし書の許可を求める申請書を提出した。

右計画の概要は別紙のとおりであり、産業廃棄物処理業(中間処分業)を行うために設置が予定されている産業廃棄物処理施設(焼却炉。以下「本件施設」という。)の概要は、焼却炉が煙突の高さが一八メートル、一時間当たりの処理能力は二トン、一日当たりの処理量は二〇トンの規模で、焼却する産業廃棄物の種類は、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類、紙くず、木くず、繊維くず、動植物性残渣、ゴムくず、金属くず、ガラスくず及び陶磁器くずの一二品目である。また、焼却炉に付随する施設として管理棟、産業廃棄物の保管倉庫棟があり、本件施設にに付設して燃えがら及びばいじんを埋め立てる最終処分場がある。

右のような産業廃棄物処理施設は、法五一条に定める施設に該当し、都市計画においてその敷地の位置の決定がなされていない場合には、原則として新築又は増築ができず、例外的に、同条ただし書に基づき、特定行政庁が都市計画地方審議会の議を経てその敷地の位置が都市計画上支障がないと認めて許可した場合に限って新築又は増築することが許される。

2  本件土地及び周辺の状況

(一) 本件土地は、秩父市内に所在する。秩父市は、埼玉県西部の秩父盆地の中央部に位置する一市五町四村からなる秩父地方の中心都市であって、市街地が市の中心部を貫流する荒川東岸沿いに広がり、秩父鉄道秩父線、西武鉄道西武秩父線が乗り入れ、国道一四〇号、同二九九号が交差する交通の要衝である。

(二) 本件土地は、秩父市内の秩父郡荒川村との境界付近、秩父市中心部に拡がる市街地の西南部に位置し、都市計画区域内であるが、都市計画上の用途地域としては無指定である。また、本件土地は、西側で荒川に面し、東側で県営住宅つばきの森団地(中層耐火三階建て二棟、三六戸)に隣接し、北側には国有水路(通称湯之沢)を挟んで影森グラウンドがある。

3  本件施設の設置についての地元地方公共団体等の意見

(一) 被告は、本件申請の事前審査及び本件申請の審査において、本件施設の敷地の位置が都市計画上の支障があるか否かについての判断の参考とするために、秩父市及び荒川村に対して意見照会を行った。

(二) 事前協議時の秩父市の意見

本件申請の事前審査手続において、平成五年一月一四日付けで被告に提出された秩父市建設部長の意見は、(1)本件土地の約3.1キロメートル下流の荒川に存する市の上水道取水場への影響を十分考慮する必要がある、(2)本件土地の隣接地に市が設置を計画している(仮称)影森総合スポーツセンターへの影響を十分配慮する必要がある、(3)事業計画には本件土地内での五〇年間にわたる焼却残渣の埋立計画があるが、埋立てによる荒川の水質汚染、地下水汚染が懸念され、荒川に隣接する本件土地上での計画は位置的に適切でない、(4)秩父地域の観光、秩父リゾート地域整備構想に対するイメージを十分考慮する必要がある、(5)本件焼却施設は大気汚染防止法の規定する「ばい煙発生施設」であるが、計画煙突高では拡散効果が低減され、盆地のため大気が滞留することを考えると、大気汚染物質を排出する施設の設置は検討を要する、(6)産業廃棄物の処理施設の立地については、地域住民の合意形成を図ることが必要であると同時に、秩父地域・秩父市の地域振興の方向性とも整合せず、観光都市秩父にとってマイナス面が多大である、との理由で本件施設の設置は支障があるとするものであった。

(三) 本件申請時の秩父市の意見

本件申請の審査手続において、平成五年三月二二日付けで被告に提出された秩父市長の意見は、秩父市の施設に対する影響及び将来の都市計画を考慮し、また、市民の反対の状況から、本件施設の設置には都市計画上の支障があるとするものであり、その理由の概略は、(1)本件土地は都市計画法に基づく用途地域は無指定であるが、平成四年三月に埼玉県により策定された秩父市周辺幹線道路網計画によれば国道一四〇号及び同二九九号のバイパスが交差する計画となっており、この計画の実施によりこの地域は商業地及び住宅地としての土地利用が図られることが見込まれる、(2)本件土地の北側隣接地には秩父市総合振興計画基本計画に基づく影森総合グラウンドの整備が計画されており、この施設の市民の利用上の影響が懸念される、(3)本件土地から荒川下流約3.1キロメートルには上水道の水源である取水口(秩父市別所浄水場)があり、この施設への影響が懸念される、(4)平成四年一二月の秩父市議会定例会において本件施設に対する建設反対請願が採択されている、(5)平成五年三月尾田蒔町会長協議会から、本件施設に対する建設反対の陳情がなされている、というものであった。なお、右の秩父市長の意見書には、前記(二)の事前審査時における秩父市建設部長の意見及び秩父市建設委員協議会の次の意見が添付されていた。秩父市建設委員協議会の意見は、(1)平成四年三月に策定された秩父市周辺幹線道路網計画によれば、事業計画予定地周辺において、国道一四〇号・二九九号バイパスが交差するなどの計画がある。今後、国道一四〇号線の拡幅、線形の変更が考えられ、この周辺での立地は不適である、(2)本件土地周辺は、後期基本計画、秩父市周辺幹線道路網計画によれば、幹線道路網の完成により商業地若しくは住宅地として土地利用が図られることが予想され、また、北側隣接地には市の都市計画公園の設置を予定しており、これらへの悪影響が懸念される、(3)上水道・大気汚染が懸念される、(4)対岸の秩父リゾート地域への影響から、立地は不適当である、(5)平成四年一二月の秩父市議会定例会において本件施設に関する建設反対決議が採択されている、(6)結論として、法五一条に基づく建設許可に係る事前の意見としては、将来の都市計画上の問題を含め支障ありと判断する、というものであった。

(四) 荒川村の意見(事前審査時及び本件申請時)

本件申請の審査手続において、平成五年三月二六日付けで被告に提出された荒川村長の意見は、同村建設課長が事前審査時の平成五年一月二一日付けで提出した意見書に変更はないというものであり、右意見書の内容は、(1)本件土地は荒川に近接しているため、安全な水資源供給への影響が懸念される、(2)有害物質を含む排水・排気ガス・悪臭が発生する、(3)処理前の廃棄物の飛散及び有害物質の流出の問題がある、(4)医療廃棄物からの二次感染の問題がある、(5)本件土地に隣接する荒川村久那地区から、建設反対の要望書が提出されているとともに、村議会においても建設反対の意見書が議決されている、との理由で本件施設の設置には支障があるので、被告に対して特段の配慮を求めるというものであった。

(五) 住民の意見

本件施設の設置に対しては、地元秩父市、隣接する荒川村の住民等から反対意見が出されている。主なものとしては、(1)平成四年一二月招集の秩父市議会定例会において、秩父市民四三七一名による本件施設の設置に対する建設反対の請願が提出され、同年一二月一七日賛成多数で採択されたこと、(2)荒川村議会議員から荒川村村長宛に反対意見書が提出されたこと、(3)荒川村議会議長から被告あてに地方自治法九九条二項に基づく平成四年一二月一八日付け反対意見書が提出されたことが挙げられる。

4  本件処分

(一) 被告は、原告の本件申請に対し、平成五年三月三一日付けで不許可とする本件処分を行い、原告は、同年四月七日、右処分を知った。処分理由の概要は、次のとおりである。

法五一条ただし書の適用においては、関係市町村及び一般住民などの地元の意見を尊重することが重要であり、都市計画上の支障の有無の判断についても住民の意見を十分に考慮する必要がある。また、法律上議会の関与は不要とされているが、市町村議会の議決事項も考慮する必要がある。

しかるところ、本件における計画については、平成五年二二日付けで秩父市から本計画に対する回答があり、①市施設への影響及び将来の都市計画を考慮し、また市民の当該施設設置に対する反対の状況からみて本計画に支障があるとしている。また、荒川村からも同年三月二五日付けで回答があり、本計画には支障があるとしている。②秩父市の平成四年一二月市議会において、四三七二名の当該施設の建設反対の請願を賛成多数で採択されている。③秩父市では都市計画審議会に代わる秩父市建設委員協議会において、将来の都市計画上の問題を含め支障があると判断している。

(二) なお、被告は、本件申請について、都市計画地方審議会の議に図っていない。

5  審査請求

(一) 原告は、本件処分を不服として、平成五年五月三一日、埼玉県建築審議会に審査請求をしたが、平成六年二月一六日付けで、右審査請求は棄却された。

(二) 原告は、平成六年三月一八日、建設大臣に対し再審査請求を行ったが、これに対する裁決は現在に至るまでない。

三  争点

1  被告が、都市計画地方審議会の議を経ずに本件処分をしたことは違法か。

2  本件申請について、特定行政庁は、法六条三項に定める迅速に処理をする義務を負うか。

3  本件処分当時の処分理由の内容及び本訴において他の処分理由を追加することの可否

4  法五一条ただし書の審査基準及び本件処分が違法であるかどうか。

5  本件処分は平等原則に違反するか。

四  原告の主張

1  争点1について

被告は、本件処分について都市計画地方審議会の議を経ていないが、これは法五一条ただし書の趣旨に反して違法である。

2  争点2について

法五一条ただし書の許可においては、事前審査において既に許可に耐える資料が調っていると認められる場合は、法六条三項に規定する迅速処理の要請に準じた処理義務があるというべきところ、本件においてはその場合に当たるから、本件申請から平成五年三月三一日まで経過してなされた本件処分は違法である。

3  争点3について

(一)(1) 都市計画決定権者と特定行政庁の判断の関係

① 法五一条ただし書の趣旨は、特定行政庁が、特殊建築物の敷地の位置について、都市計画決定に対して支障があるか否か及び都市計画の目的(法一条)、及び基本理念に反するか否かを判断することにある。建築主事が置かれている市町村においては、特定行政庁は都市計画決定主体と実質的に一致するから、法五一条ただし書における都市計画上の支障の有無について客観的な事実を正確に吟味して判断すべきであるのは当然であるが、このことは、特定行政庁が都道府県知事とされている本件のような場合でも同様である。特定行政庁たる知事が、地元の都市計画の具体的内容や理念を知るために地元の意見を徴求し、それに配慮することは認められるとしても、それは法五一条ただし書所定の都市計画上の支障の有無を判断するための材料にすぎず、その判断は特定行政庁が独自の権限と責任においてしなければならない。

また、法五一条ただし書の許可は、新たな都市計画決定をするのではないから、改めて地元市町村の議会の意見を聞くことに論理必然性はないし、地元住民の意見や合意形成の状況などが改めて必要となるものでもない。法五一条ただし書が「特定行政庁が……都市計画上支障がないと認めて」と、わざわざ都市計画との関係を具体的に掲げていることからすれば、地元の反対意見の存在から直ちに不許可の決定を出すことは、法の予定するところではないと解すべきである。

法五一条に定める建築物の敷地の位置と都市計画との関係をよく判断しうるのが地元であるということは、一般論としてはそのとおりであり、原告も地元の意見を無視することを主張するものではない。しかし、特定行政庁は、地元の意見の結論をそのまま受け入れることによってその責任を果たしたということはできず、地元の意見が真実に合致しているかどうかを検討することは不可欠であり、また、施設の公益性、財産権保障の観点から都市計画との関係などを吟味して、許可不許可の判断をしなければならず、地元の意見の結論そのものに特定行政庁が拘束される必然性はない。

以上のように、地元の反対意見の存在は、許可不許可の考慮要素になることは否定できないとしても、特定行政庁が都市計画との関係で支障があるかどうかを判断する際の資料として意味があるにとどまるというべきである。

② 被告の本件処分の理由は、単に地元に反対意見が存在するということにすぎない。

被告は、本訴が提起された当初は、本件処分の根拠は地元の反対意見の存在にあると主張していたのであって、被告の本件処分の理由は、その後本件訴訟の進行に伴って付加されてきたものである。影森総合スポーツセンター整備計画や国道の交差計画等については、地元意見の内容として挙げていたにすぎない。また、隣接河川がバーベキューなどの市民の憩いの河原になっているなどの指摘は、訴訟が終結に近い段階になってなされたもので、地元意見の中にも直接的には見受けられない。

この点は、被告の主張する法五一条ただし書の判断基準についても同様である。被告は、都市計画マニュアル等を示しながら、法五一条ただし書について都市計画上の支障の有無を判断する基準があり、その判断基準に照らして本件処分を行ったかのごとく主張するが、これは事実に反する。そもそも、本件処分当時、被告には法五一条ただし書の審査基準として明確なものはなかった。

また、仮に、被告の主張する建設省の二通の通達が存在し、それに基づいて「計画標準(案)」及び「都市計画マニュアル」が作成され、これらに被告主張の各点が記載されているとしても、そこから被告が本訴で主張する基準が論理的に導かれて、審査基準として存在するものではなく、被告が審査基準として挙げる各項目は、要するに、従前の主張について、あたかも確立された審査基準が存在するかのように装ったにすぎない。すなわち、被告は本件処分を行った際に、被告が本訴で主張する審査基準を用いたことはなく、これは本訴のために独自に策定されたものである。

③ 被告が本件処分の理由とした地元の意見は、既に策定されている秩父市の都市計画の具体的な内容との関連で意見を述べたものは全くないばかりか、事実認定を誤っており、特に本件施設の環境に対する影響について事実に基づかない抽象的な危険を前提しているものが多いうえ、本件施設と関係のない地域の意見が含まれている。

被告が処分理由として上げる地元の意見に理由がないことは以下のとおりである。

a 最終処分場に対する意見について

焼却炉に附属する施設として、保管倉庫の外に最終処分場を挙げているが、これについては、法五一条ただし書の許可が必要な施設ではなく、平成四年六月三〇日付けで既に設置届が受理されている。最終処分場に対する意見は、最終処分場の設置についての反対意見であるならば意味を持つが、本件施設に関する意見としては意味を持たない。

b 秩父地域の観光、秩父リゾート地域整備構想に対するイメージについての意見について

秩父市建設部長の秩父市の観光、秩父リゾート整備構想に対するイメージについての意見は、あまりに漠然とした感覚的なものである。観光都市秩父といっても、それ以外の多くの工業施設が秩父地域に存するし、本件施設に近接して別業者による産業廃棄物処理施設が存在している。

秩父地域における観光や秩父リゾート整備構想が、同地域の都市計画構想において考慮されていることは想像できるが、観光と無関係な施設を認めないという方針をとっているわけではなく、この意見は、法五一条が求める土地の合理的利用と都市計画との適正な調和という理念に合致しない。

c 煙突高とばい煙拡散効果に関する意見について

本件施設は、大気汚染防止法による規制に適合する施設である。また、盆地のために大気が滞留することを懸念するとの意見は、その科学的根拠が不明である。

d 秩父市議会の反対採択について

平成四年一二月の秩父市議会定例会において本件施設の建設反対の請願が採択されているが、その理由は、主としてばい煙や水質汚染を問題とするものである。しかし、本件施設は廃棄物処理法、大気汚染防止法による規制に適合する施設であり、また、本件施設からは排水はない。

e 町会長協議会からの反対意見について

尾田蒔町会長協議会からの反対意見も、本件施設の内容についての客観的、科学的分析がされずに出された意見であることは、その理由から明らかである。

なお、本件施設に隣接する影森町の町会連合会は、本件施設の設置についての原告の説明に対し、平成四年五月二二日付けで、「県並びに市等関係諸官庁の適正な指導を受け一般住民に対して、些かも環境的諸被害を及ぼさないよう万全の措置を講じて計画を進められたい。」との意見書を原告に提出している。

また、原告は、平成三年一〇月から平成四年四月までに、本件施設から三〇〇メートル以内に居住する地元住民四一軒中三一軒から産業廃棄物処理場施設の操業の同意書を得ている。右同意書は、住民との真摯な交渉の結果得られたものである。

f 荒川村の意見について

都市計画に対する支障を判断するために意見を徴するのであれば、その対象は当該都市計画の策定者である秩父市に限られるはずである。ところが、被告は荒川村の意見も徴しているところ、被告が荒川村の意見を求めた理由は明らかでない。

被告は、本訴において、被告自身は秩父市の都市計画に直接かかわっていないから秩父市の意見を尊重する旨主張しているが、荒川村も秩父市の都市計画に関しては直接関与しているわけではない。

g 上水道施設への影響及び有害物質を含む排水、排気ガス、悪臭の発生、処理前の廃棄物の飛散の懸念、有害物質の流出について

前記のとおり、中間処理施設たる本件施設において、排水の問題は生じないし、排気ガス対策は十分講じられている。また、高温焼却により悪臭は発生せず、廃棄物の飛散の懸念や有害物質の流出の危険はあり得ない。これらの事実は、本件施設の計画書により明らかである。

h 医療廃棄物からの二次感染について

本件施設では、医療系の産業廃棄物(特別管理産業廃棄物 廃棄物処理法二条五項)を扱うことを計画しているが、これらの廃棄物については、同法の平成三年改正により厳重な施策が設けられ、本件施設は右基準に合致する厳格な配慮がなされている。

すなわち、医療系廃棄物については、施設において一回しか積替えが許されず、その積替え及び焼却は容器ごと行われる。したがって、細菌等の感染物質は外気にさらされることはなく、二次感染の危険性はない。

④ 被告は、地元意見の内容が適切かどうかの調査は全くしていない。被告が現地を確認したのは一回のみであるし、地元意見に列挙された諸々の懸念される事実についても、特別に確認するなどの作業を行っていない。設置される焼却炉の種類、他の部局での議論の内容、公害防止の観点からの申請者の認識など、地元意見を徴求する一方で行うことができる調査はいくらでもあるにもかかわらず、被告の担当者はこれら調査を全く行っていない。

被告は、事前審査において、既に本件施設の科学的、客観的内容を熟知していたから、地元の意見が単なる感覚的なものにすぎず、根拠を欠くものであることは容易に判断できたはずである。それにもかかわらず、本件不許可処分をしたのは、最初から原告の申請書の形式が調った後は地元意見の内容によって結論を決めればよいと決めてかかっていたものと考えざるを得ない。

⑤ 自己所有地にどのような財産を建設するかは、本来、各所有者の自由に委ねられるべき事柄であり、この自由は、憲法二二条、二九条で保障されている。もっとも、財産権も公共の福祉に合致しなければならないので、一定の合理的制限は受けるから、法五一条ただし書はこのような趣旨として理解すべきである。したがって、右規定の判断が処分庁の裁量に委ねられるとしても、それは自ずと一定の限界がある。ところが、以上のように、被告は、単に地元の意見が反対であるということだけを理由にして本件処分を行ったのであるから、本件処分は著しく裁量権を逸脱した違法があるものとして取消しを免れない。

4  争点4について

(一) 本件施設の有用性

本件施設は産業廃棄物の中間処理施設であって、廃棄予定の廃棄物を焼却するなどして形状を変えたり、有害性を取り除いたりして処分する施設である。

現在、最終処分場の場所が不足して不法投棄などの問題が生じている。中間処分により廃棄物の分量を軽減化し、より多くの廃棄物の最終処分を可能とするこのような施設は、ごみが増える一方、最終処分場の立地がますます困難となる現在、急速に必要性が高まっている。

本件施設は、右のような要請に合致するものであり、また、燃焼温度の最低を八〇〇度としたことにより、医療廃棄物などの特別管理産業廃棄物も燃焼処理が可能であり、かつ、ダイオキシンなどの排出の心配もない優良なごみ処理施設である。そして、高温燃焼により異臭もなくなり、さらに、排ガス対策としてスクラバー集塵機二機、電気集塵機一機を特別に配置して有毒ガスの発生を除去するなど、大気汚染に対する配慮も万全なものとなっている。加えて、本件施設で使用した水を放流する必要は、全くない。

本件施設は厚生省の当面の指針によりよく合致しており、社会的有用性が高く、しかも医療廃棄物の処理施設が現状では県内に乏しいことからも、待ち望まれている施設である。

(二) 都市計画構想と本件施設との関係

被告が主張する都市計画構想と本件施設の関係は、その全てはまだ具体化していない。そもそも本件土地は秩父市の中長期的な都市計画基本構想に基づいて、都市計画上、無指定地域とされており、少なくとも、現在の都市計画上は、この地域をどのような地域として発展させるかについて構想がない地域である。それを、あたかも間もなく住居地域又は商業地域として発展するかのように述べたり、観光地化するかのように述べたりすることは許されない。

法五一条ただし書の法意からすれば、都市計画上の支障を理由とする場合には、ある程度、具体的、客観的に支障が生じるおそれが明らかになっている必要があるというべきである。ところが、本件土地が無指定地域であることは、本件施設の敷地の位置が、将来の都市計画上支障がない蓋然性が高いことを表しており、実際にも、本件土地は河岸によって他の地域と画然と分離された場所であり、そもそも秩父市内の他の様々な場所と比べても、他への影響が考えにくい所である。

(三) ウォーターフロントゾーン計画との関係について

本件施設は関係法令の規制の要件に適合していること、本件施設からの排水がないことは前記のとおりであり、ウォーターフロントゾーン計画との関係においても都市計画上の支障が生じるとの被告の主張の要点は、主として眺望の点にあるといえる。しかし、本件土地上には既に原告が営む大きな砕石プラントが存在し、現在、これが河川敷側から丸見えの状態にある。しかも周囲は草木が刈り取られ、あるいは不要の土砂が山積みされており、非常に無機質な景観を呈している。もし、河川の反対側からの景観を保持しようとすれば、施設の河川側に土堰堤を築き、そこに植林をすることで施設は見えなくなり、かつ、緑を満たすことも可能となる。

また、本件施設の北側には最終処分場が設置されているし、砂利の関係ではあるが、同じく北側に有限会社孔明(以下「孔明」という。)が最近になって産業廃棄物処理施設を建設して操業している。これらは嫌忌施設としては本件施設と同様の意味を有しているはずである。

被告の主張は、本件施設の建設とその主張する環境との間の関連性が極めて漠然としている。

(四) 国道交差の問題について

(1) 国道一四〇号と同二九九号の交差計画は、用地買収などには全く着手されておらず、現在のところ用地買収計画もない、単なる方針にすぎない。しかも、この道路計画は、秩父市の策定ではなく、埼玉県の策定である。

平成四年三月策定の秩父市周辺道路網計画の策定者である埼玉県土木部道路建設課の説明によれば、右道路網を整備する必要はあるが、現在では何らの調査も行っておらず、本件土地周辺で右道路が交差するとはいえないし、道路位置は今後の調査によるとしている。右計画には、そもそもいくつもの交差方法が例示されており、その中から一定の結論を導いているが、それも両道路の位置についての考え方が示されたにすぎないのであって、交差点の候補地が決められたものではない。

(2) 被告は、国道一四〇号と同二九九号の交差により、周辺の発展が見込まれるとするが、本件土地は、被告の主張によっても交差予定地点から一キロメートル離れており、また、本件土地は現在の国道の場所よりも相当低い位置にある。仮に、交差点付近に町並みができるとしても、その部分と河川の下の部分とは大きな崖によって明確に区切られているから、本件施設の設けられる下の部分に町並みができるはずがない。そして、国道一四〇号の拡幅、線形の変更による影響も不明である。

また、本件土地が現状とは別の開発を要することになれば、買収協議になるのであって、本件土地には既に砕石プラントが存することからすると、立ち退きの対象が砕石プラントか、中間処分場かで買収協議に大きな差はないと考えられる。

(五) 影森総合スポーツセンター整備計画との関係について

(1) 影森総合スポーツセンター整備計画という名称の構想が秩父市にあることは事実であるが、その場所が、本件土地の隣接地であることは未だ決定されていない。

また、右整備計画について、被告の主張する都市計画上の支障は、具体的、科学的でないといわざるを得ない。そもそも本件施設については、有害物質等による公害の懸念はないことは前記のとおりである。

(2) しかも、右計画地内には、平成七年七月二五日付けで、孔明の申請に基づき、産業廃棄物中間処理施設の設置許可がされている。この施設の扱う廃棄物の内容は、コンクリート、金属くず、建築廃材の破砕であり、処理能力は一日三二〇トンで、保管する廃棄物の高さは三メートルである。これは、影森総合スポーツセンター整備計画地の中に設置されたものであり、右計画がいかに流動的かを示すものである。

また、設置許可について、本件施設と孔明の施設とは根拠法条が異なるとはいっても、市民にとって迷惑施設であることに何ら差はない。むしろ、眺望等ここでくつろぐ市民に対する影響という意味では、孔明の施設の方が影森総合スポーツセンターを利用する者に位置的に接近しているし、右施設では、破砕したくずを野ざらしの状態で保管している。周囲は広大な敷地であるから、風雨による散逸などの影響はむしろ孔明の施設の方が顕著である。また、この施設ができることとなった結果、本件土地周辺は産業廃棄物処理施設が集まる地帯となった。埼玉三興株式会社(以下「埼玉三興」という。)の処分場や孔明の右施設が認められるのに、本件施設についてだけ地域の将来の都市構想の関係が問題にされなければならない理由はない。

さらに、土堰堤による影響低減の努力は、ここでも活用ができるのであって、これを検討せずしては、正しく都市計画への影響を論じたことにならない。

(3) 本件施設の物理的影響による危惧について

被告が主張する物理的影響は、要するに、本件施設が故障した場合の危惧を述べているにすぎない。

故障して害悪をまき散らすような事態に至った場合、周辺に対して多大な被害を与えうることは、グラウンドが近くにある場合に限らない。したがって、本件施設について、まず故障がないように極力配慮されているかどうか、次に何らかの故障が発生しても種々の害悪を拡散しないようになっているかどうかが検討されるべきである。

被告は、本件施設内に設置を予定されているのと同一機種の焼却炉を使用している施設の例を挙げて環境への悪影響を懸念するが、右事例は循環器を設置しないで稼働させており、排水の問題についても、原告の予定と異なるものである。

本件施設は集塵の点についても、スクラバー集塵機を二機設置し、更に、補足率の高い湿式の電気集塵機を取り付ける予定であって、少なくとも当時においては、最高水準のものであった。

(六) 県営住宅つばきの森団地

本件土地は、東側で県営住宅つばきの森団地に隣接しているが、これは事前審査の中で、接道要件を十分に満たすために申請区域を広げるようにとの被告の指導に従ったためである。もともと、県営住宅つばきの森団地に接する部分は、申請地には含まれていなかったのであり、原告の事業にとっても必ずしも必要な土地ではない。

5  争点5について

秩父市が設置する秩父環境衛生センターというごみ焼却場(最終処分場)は、秩父聖地公園に隣接して設けられている。同公園は、単なる墓地ではなく、周辺の景観屋外レクリエーションの場として整備するものとされており、同公園の中には市民プール、グラウンド、民族博物館が設置されていて、プールと右ごみ焼却場の距離はわずか二〇〇メートル程度である。加えて右ごみ焼却場のすぐ近くには、秩父札所三番常泉寺がある。

秩父環境衛生センターがこのような立地で認められていることからすれば、少なくとも、秩父市が公園との距離等により本件施設の敷地の立地について判断したことは誤りであるし、また、本件処分は著しく平等原則に反するといわなければならない。

さらに、前記のとおり、影森総合スポーツセンター計画地内には孔明の設置する産業廃棄物の中間処分場の設置が許可されており、本件施設から荒川の上流方向には、埼玉三興の最終処分場が設置されている。埼玉三興の最終処分場は、秩父市の別所浄水場取水場と本件施設の間に立地するが、被告は、この施設については放出水による河川汚水を防止するために、排水を迂回して別河川に放水させる行政指導を行ったうえで右会社の営業を許可している。そうすると、河川汚染が、この種の施設の許可不許可の処分をするにつき直接の影響を及ぼすものでないことは明らかである。

しかも、埼玉三興の処分場は、秩父ミューズパークとの関係でも本件施設より近接している。

したがって、本件処分は、別の業者が既に設けている廃棄物処理施設及び市が設置しているごみ処理場など本件施設に類似する施設との関係で、平等原則に違反している。

五  被告の主張

1  争点1について

法五一条本文に定める建築物の敷地の位置は、原則として都市計画において定めるべきであり(都市計画法一条一項三号、七号)、同条ただし書の許可は、建築物の敷地の位置が都市計画決定を行いがたい場合などに限り、あくまで例外的になされるものであって、建築基準法上で特殊建築物の敷地の位置について許可する場合にも、都市計画上の観点を重視するため、すなわち建築物の敷地の位置について都市計画上支障をもたらすかどうかを慎重に判断するために設けられたものである。したがって、都市計画地方審議会の議を経ることは、当該申請を許可する場合の要件というべきであって、特定行政庁が明らかに都市計画上の支障があると認める場合には、都市計画地方審議会に付議することなく不許可処分を行うことができる。

本件では、後記のとおり、明らかに都市計画上の支障があると認められ、また、原告の強行的態度及びこれに反対する地元の強固な態度に変化はなく、結局のところ、同審議会に図るだけの機が熟しているといえない状況にあった。

したがって、都市計画地方審議会の審議を経なくても、本件不許可処分に何ら違法な点はない。

2  争点2について

法六条三項に規定する処理義務が適用になるのは、同条一項の建築確認申請であり、法五一条ただし書の許可申請においても適用されるとする規定はない。建築確認申請と法五一条ただし書の許可申請とは、その趣旨を異にするから、特定行政庁の法五一条ただし書の許可に対する判断は、法六条三項に拘束されない。そして、少なくとも平成五年二月一八日の本件申請までの間は、被告の行政指導による事前審査が行われ、原告はこれに応じていたのであるから、原告の主張は理由がない。

3  争点3及び4について

本件処分の理由は、以下のとおりであって、何ら違法事由はない。

(一)(1) 法五一条は、卸売市場、火葬場又はと畜場、汚物処理場、ごみ焼却場その他の処理施設の用途に供する建築物は、都市計画でその敷地の位置が決定しているものでなければ新築又は増築をすることができないことを原則とし、右の建築物の敷地の位置が都市計画決定を行い難い場合などに限り、例外的に、法五一条ただし書に基づいて、特定行政庁が敷地の位置が都市計画上支障がないと認めて許可したものに限って、新築又は増築を許すものとしている。

都市計画は、農林漁業との健全な調和を図りつつ、健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保すべきこと並びにこのためには適正な制限のもとに土地の合理的な利用を図られるべきことを基本理念として定めるものである(都市計画法二条)。この都市計画を定めるにあたっては、現在及び将来における都市の機能を確保し、発展の方向を定め、また、土地利用の規制、事業の実施等を通じて都市計画の内容を効率的に実現する必要がある。

したがって、その決定においては、都市行政上の基礎的な単位である市町村の立場が十分に尊重されなければならず、原則的には市町村が決定権者ないしは原案作成者となる。

(2) そして、法五一条が適用される建築物のような都市施設についての都市計画は、市町村が定めるものとされているが(都市計画法一五条)、これは、これらの処理供給施設が都市生活上必要不可欠な施設である反面、周辺の環境に大きな影響を及ぼすおそれがあり、また、一度設置されればみだりに変更するわけにもいかず、施設設置の費用も多額に上るからである。すなわち、都市内におけるこれらの施設については、現在ばかりでなく将来も見据え、都市計画上の観点から十分慎重に検討されたものでなければない。それ故、例外的に法五一条ただし書の許可をする場合には、慎重に判断しなければならないことは、前記のとおりである。

(3) 市町村が定める都市計画は、議会の議決を経て定められた基本構想に即し、かつ、都道府県知事が定めた都市計画に適合したものでなければならない(都市計画法一五条三項)ことからすると、市町村が都市計画を定める場合には、法律上、議会の関与は明文では必要とされていないものの、議会の意思が反映されるべきものである。

また、都市計画は、一般住民に対する影響が大きいことから、市町村が都市計画決定を行うに当たっては、公聴会の開催等住民の意見を反映させるために必要な措置を講ずる手続(都市計画法一六条一項)、計画案の閲覧、関係市町村の住民及び利害関係人の意見書提出の手続(都市計画法一七条一項、二項)等が定められていることに加え、基本構想の策定において、住民の意見が議会を通じて反映される仕組みとなっている。

したがって、法五一条ただし書の許可においても、これらの地元市町村、議会、地元住民の意見が尊重されるべきことは当然である。

(4) 以上のことは、都市計画上、用途地域が定められていない無指定地域においても同様である。無指定地域においては、まだ用途地域などの都市計画が定められていない状況であるから、法五一条ただし書の許可については、その建築物の立地を許すことによって都市計画を進めるうえで妨げとなることがないかどうかをより一層慎重に見極めることが必要となり、当該敷地の位置が地元自治体の施策の基本であるとともに都市計画の母体ともなるべき基本構想における基本的な土地利用計画に反するものでないこと、あるいは当該施設の立地について地元における合意形成が得られていることがとりわけ必要となる。法五一条ただし書が、特定行政庁に対して、同条に定める各種建築物の立地について都市計画法上の支障の有無ではなく、都市計画上の支障の有無について判断することを要求していることからすれば、既に決定済みの都市計画に適合するかどうかを検討すれば足りるものではない。

(5) 法五一条ただし書の特定行政庁とは、建築主事を置く市町村の区域については当該市町村の長をいい、その他の市町村の区域については都道府県知事をいう(法二条三二号)。すなわち、建築主事を置かない市町村にあっては、都市計画の決定権者ではない都道府県知事が特定行政庁となるという変則的な法律構造となっている。本件においては、秩父市には建築主事が置かれていないから、被告が特定行政庁となり、法五一条ただし書に基づく許可権限を有する場合も、右に述べた都市計画法及び法五一条の立法趣旨に照らすと、都市施設についての都市計画決定権者である秩父市の都市計画上の構想や考え方、地元住民の意見が極めて重視されるべきである。

(二) 都市計画上の支障の有無についての判断の基準

(1) 法五一条の運用及び判断指針については、建設省から発出された昭和三五年一月二五日建設計発第二九号の通達において、ごみ焼却場等の設置については原則として都市計画の施設として決定するものとし、法五一条ただし書の規定により特定行政庁が取り扱う範囲を、①市街化の傾向のない場所に位置し、若しくは比較的小規模である等周囲に影響を及ぼす影響の少ない場合、②将来の情勢の推移によって移転すること等が予想される暫定的なものである場合、③設置しようとする都市に、用途地域、街路網、公園等の既定都市計画がない場合又はそれらの構想が確定していない場合、④その関係部局が公益上やむを得ないと認める場合に限定している。なお、この場合においても、その実施に当たってはあらかじめ関係部局と協議しておくことを求めている。

(2) さらに、都市施設の設置のため都市計画決定を行う場合の具体的な指針としては、建設省策定の計画標準(案)がある。この計画標準(案)のポイントを挙げると、①都市計画区域内に設けることを原則とする、②風致地区内、景勝地内、優良な住宅地(住居専用地域等)には設けないこと、③ごみの搬入及び焼却後の残滓の処理に便利な場所を選ぶこと、④卸売市場、火葬場、と畜場との隣接・併置は避けること、⑤恒風の方向に対して市街地の風上を避けること、⑥人の近接しない場所を選ぶこと、⑦市街地及び将来の市街地(予想区域)から五〇〇メートル以上離れた場所を選ぶこと、⑧三〇〇メートル以内に学校、病院、住宅群又は公園がないこと、とされている。

また、埼玉県では、県内の市町村が都市施設の設置について都市計画決定を行う際の実務上の参考資料として、前記計画標準(案)に基づき編集した「都市建設マニュアル」を作成し、市町村に配布している。

この計画標準(案)や「都市施設マニュアル」は、都市施設の位置を都市計画決定する際の原則であるが、法五一条ただし書に基づく許可も都市施設の設置を目的とすることでは同様であるから、右の許可・不許可を判断するに当たっても原則たるこのような都市計画決定の標準を考慮し、さらに、ただし書が例外許可である観点から、より厳格な審査がなされるべきである。

(3) したがって、法五一条ただし書について、特定行政庁が都市計画上の支障の有無を判断するに当たっては、立地しようとする施設の位置、施設の種類・規模・構造等、都市計画決定権者である地元市町村の意見、地元市町村・住民の合意形成の状況、地元市町村の定めた総合的計画に基づく土地利用計画や施設整備計画との関係、道路・公園等の公共施設等に及ぼす影響、これらの公共施設等の整備計画への影響、用途地域等の地域地区との関係等を、都市計画上の観点から総合的に考慮すべきものである。埼玉県では、右の都市施設を設置する際の基準に照らしたうえで、法五一条ただし書の許可については、次のような観点から判断している。

① 都市計画、振興計画、構想などとの整合性

当該施設の敷地の位置が既定の都市計画のみならず、市町村のマスタープラン、既定の市町村総合計画、構想など(振興計画)に支障がないこと

② 市町村の意見

当該施設のような用途に供する建築物は、都市計画法一一条、一五条により都市計画決定は市町村が行うものとされている。よって、都市計画上の支障の有無に関する市町村の意見が重要である。

③ 周辺との合意形成

周辺住民、利害関係者、地元自治会等との合意が図られ、円滑な事業の遂行が期待できること

④ 公害対策

当該施設による騒音、振動、臭気、粉塵、有毒ガス、大気汚染、水質汚濁等の公害が発生しないこと

⑤ 交通対策

当該施設周辺の交通を著しく阻害したり、学童等公衆の通行に危険をもたらさないこと

⑥ オープンスペースの確保

駐車スペース、防災安全上の空き地があること

⑦ 敷地内の緑化、景観への配慮

当該敷地周辺の環境への悪影響を緩和するように配置されていること

⑧ 地域への貢献度

当該施設における社会経済上、有用な施設であること

⑨ 学校、病院、公園等との位置関係

これらの施設に近接しないこと

(三) 被告の判断

(1) 前記(二)(3)の観点からみると、以下に述べるように、本件においては、国道一四〇号及び同二九九号バイパスが本件土地に近接した影森地区で交差する計画があり、本件土地の隣接地に影森グラウンドが整備される計画があり、本件施設は秩父市の土地利用計画に適合しないこと、用途地域の指定のない区域であっても周辺環境に多大な影響を与える施設が立地することによって秩父市が今後の都市計画を策定する上で重大な制約をもたらすこと、周辺の合意形成が十分なされていないことなどの点から、前記(二)(3)の①②③⑨の各点について都市計画上の支障があると判断し、不許可処分をした。

(2)① 国道の交差

埼玉県が平成四年三月に策定した秩父市周辺幹線道路網計画調査報告書によれば、国道一四〇号及び同二九九号バイパスが、本件土地に近い影森地区で交差することが計画されている。同報告書は将来幹線道路網を整備する際にはどのルートをとるべきかを策定することを目的として行われた調査の報告書であり、これにより右各国道バイパスの整備計画が細部に至るまで正式決定されたものではないが、以後、これを基本として詳細な調査検討を加えられ、道路位置が具体的に定められることになる。したがって、被告としては、当時正式決定ではないとしても、本件土地に近い影森地区で交差することが同報告書に基づいて計画されていると理解するものであった。

この計画場所は、本件土地からおよそ一キロメートルほど離れているが、本件土地を含む影森地区周辺地域は、秩父市の基本構想の中で、土地区画整理事業等の導入により、住宅、商業、工業地域として調和のとれた計画的な土地利用を図ることが予定されており、このバイパスの交差計画により住居系、商業系の一層の土地利用を図ることが望まれる。また、この国道交差計画の結果として、本件土地周辺で国道一四〇号の拡幅、線形の変形等が十分予想される。

したがって、本件土地に本件施設のような焼却施設が立地することは、秩父市の総合的な土地利用計画に適合せず、また、今後の都市計画の妨げとなるから、不適当と判断したものである。

② 影森総合スポーツセンター整備計画

a 本件土地は北側(下流側)で秩父市の影森グラウンドに近接する。

影森グラウンドは荒川に面して、昭和五三年に設置された市営体育施設であり、昭和五〇年代から六〇年代にかけて、秩父市の同種地域としては最大の年間約五万人から六万人の市民に利用されていた。

第二次秩父市総合振興計画基本構想(以下「本件基本構想」という。)、同後期基本計画(以下「本件後期基本計画」という。)においては、約一〇万平方メートルの広さをもつ影森グラウンドを市民総合スポーツセンターとしての機能を満たせるように整備することが計画されている。この計画における施設の機能としては、社会体育と学校体育(小・中・高代表選手)を兼ねた競技ができる総合スポーツセンターとし、競技施設は、総合運動場として多目的広場、アーチェリー場、テニス場、水泳場、馬術練習場、ジョギングコースを配置し、競技種目は、野球、サッカー、ホッケー、ラグビー、陸上競技、テニス、馬術、ソフトボール、ハンドボール、水泳等とすることとされている。

また、主要施設の概要は、陸上競技場は種別第三種の円形四〇〇メートルトラック及び三、五〇〇人程度収容可能なスタンドを有し、野球場はプロ野球二軍戦程度のできる公認球場で四、〇〇〇人程度収容可能なスタンドを有し、多目的広場はソフトボール一面が使用できる広さとし、アーチェリー場は競技用の男子九〇メートル、女子七〇メートルの固定発射場を有し、テニス場は全天候型コート四面を有し、水泳場は五〇メートル競技用プール、飛び込み用プールを有するものとされている。

このように、影森グラウンドは、市民総合スポーツセンターとしての整備が予定されている。

b もっとも、影森グラウンドのうちの市有地部分は、昭和六〇年一二月二三日付けで水資源開発公団に貸与され、浦山ダム建設事業に伴う残土の捨場として利用されていたが、当該借地に係る協定書及び覚書、確認書によれば、借地期間満了により土地を返還するときは、右公団が影森総合スポーツセンター整備計画に合わせた整地をすることが条件とされている。この借地期間は平成一〇年三月末で満了するため、影森グラウンド機能回復分の計画に沿って、右公団により大規模な盛土、整地がなされている。そこで、平成一〇年三月末までに、本件土地からわずか幅三メートル足らずの水路を隔てて隣接する位置に影森グラウンドが完成することになる。また、秩父市は、今後さらに影森グラウンドを整備していくことを計画しており、影森総合スポーツセンター計画は完成へ向けて着々と進行している。

c このように、影森グラウンドは、市民総合スポーツセンター、総合レクリエーション施設として、体育活動による市民の健康の増進、余暇の活用を目的とした影森総合スポーツセンターとして整備されることが計画されている施設であり、その立地については、特に周辺環境が良好であることが必要である。本件施設のような産業廃棄物の焼却炉からは、操業によって「ばい煙」が排出され、「燃えがら」及び「ばいじん」を生じることとなるが、煙突から排出されるばい煙には、硫黄酸化物、ばいじん、有害物質が含まれる。影森グラウンドは、市民の健康増進や余暇の活用を目的とする施設であるから、良好な環境のもとにあってこそ、その効用を全うすることができるのであり、近接地に本件施設のような大規模な産業廃棄物の中間処分施設(焼却炉)が建設されることは好ましくない。特に、本件施設は、前記のとおり大規模なものであり、実際に操業を開始した後、計画とおりで機能しない時は、排出基準を超えるばいじんや有害物質のみならず、悪臭等の発生による影響も大きくなる。悪臭は風向によっても変わり、また、人の感覚は個人差もあって直ちに規制や是正の措置を講ずることが難しいことから、影森グラウンドの利用上障害となることが考えられる。このように、影森グラウンドの近接地に本件施設が立地することにより、グラウンド利用者が気持ちよく施設を利用することの妨げとなったり、苦情が寄せられたりすることが考えられ、本件施設の効用を損なうことになる。

d 孔明は影森総合スポーツセンター計画地内である秩父市大字上影森字川井二〇七番一及び同二〇八番一の計二筆の土地(合計地積は公簿一、〇〇四平方メートル、実測一、一八九平方メートル)において、平成七年三月二七日付けで、被告から、産業廃棄物処理法一四条四項に基づく産業廃棄物中間処分業の許可(許可内容は金属くず・建設廃材の破砕であり、この施設はいわゆるコンクリート・クラッシャー・プラントである。)を受けた。しかし、これによって、影森総合スポーツセンター整備計画が流動的であるということはできない。

孔明が許可を受けた右土地は、影森総合スポーツセンター計画地の北東の一部で、民有地である。秩父市の影森総合グラウンド計画は、前記のように約一〇万平方メートルの広さを持つ影森グラウンドを市民総合スポーツセンターとして整備する計画であるところ、孔明が許可を受けた都市の地積は影森総合スポーツセンター整備計画地の地積のうち約1.1パーセントであるから、同計画地の片隅のごく一部を占めるにすぎない。しかも、秩父市が昭和六一年に作成した同計画案によれば、右計画地内の国有地及び民有地の合計四万五〇一七平方メートルは将来用地買収を行うことによって確保し、そのうえで整備するという構想であって、現に右計画後、一万九〇七三平方メートルが買収されている。残る民有地等について用地買収が成功しなければ、計画に部分的な変更が加えられることもあり得るであろうが、法的には、都市計画事業として民有地の土地収用を行うことも可能である。したがって、影森総合スポーツセンター整備計画が具体的でないとはいえないし、孔明に対する許可によって同計画が不可能になることはないから、同計画の根幹には何ら影響がない。

e したがって、本件施設が影森グラウンドの近接地に立地することは、都市計画上看過し得ない、右のような具体的支障があるから、本件施設が本件土地上に立地することは、都市計画上、不適切である。

③ ウォーターフロントゾーン構想について

本件土地周辺は、水と緑に囲まれた景観に優れた地域であり、本件土地の対岸は、埼玉県の秩父リゾート地域整備構想の長尾根重点整備地区に属し、また、本件土地周辺の河川敷部分は、ウォーターフロントゾーンとして、整備が進められている。現在でも、この河川敷には、バンガローが建ち並び、行楽時期には、水とのふれあいを求めて多くの県民がこの河川敷を訪れ、オートキャンプなどを楽しんでいる。このように多くの県民が憩う場所の目の前に産業廃棄物の中間処理場があることは好ましくない。

④ 住居地域の接近について

本件土地の東側の河川段丘の上には、秩父鉄道影森駅を中心とする住居地域が拡がっている。この影森駅付近の住居地域においては、秩父鉄道と国道一四〇号とに挟まれた地域を中心に、住宅が比較的密集した市街地となっており、本件土地の東側に隣接して県営住宅秩父つばきの森住宅(三六戸)がある。

本件土地の当該住居地域との距離は最短で約一〇〇メートルにすぎず、本件施設の立地は不適当である。

⑤ 地元秩父市の意見

秩父市は、原告提出の資料をもとに原告、設置予定の焼却炉のメーカー及び販売会社から説明を受けて、庁内の関係各課(一三課)から意見を求め、また、建設委員協議会に付議して数回に及び審議を行い、本件施設と同機種の焼却炉を使用している他県の施設を視察するなどして、施設の実態や状況の把握に努めた上、都市計画上の支障について慎重に検討し、意見をまとめた。この結果、前記のとおり、秩父市は、事前審査時においては、秩父リゾート地域整備への影響、市水道取水場への影響、排気ガスの滞留、影森総合スポーツセンター計画への影響などを理由として、また本件申請時においても、市施設への影響、将来の都市計画と整合しないこと及び市民の反対を理由に支障がある旨の回答をしている。

なお、秩父市が本件と同一機種の焼却炉が稼働する山梨県内の施設を視察した際、同施設の周辺で洗濯物が黄ばむなどの被害があったことを聞き、秩父盆地に立地する本件施設では、排気ガスが滞留し、周辺に被害が出ることをかなり危惧していた。この視察した施設は、現在でも大量の白煙を煙突から排出しており、また、屋外の鉄製コンテナの中で焼却残渣物の熱を冷ましている。

⑥ 周辺住民等の意見

前記のとおり、隣接する荒川村などからも、本件施設に対する反対意見が提出された。被告が荒川村に対して意見聴取をしたのは、本件土地が荒川村との境界付近に位置し、しかも本件施設に公道から出入りする搬入路の接続する国道一四〇号は荒川村に位置しており、荒川村にも本件施設の稼働により直接の影響が及ぶことが明らかであることによる。また、荒川村においては、都市計画法に基づく都市計画は現在のところ定められていないが、都市計画は、都市の将来像を踏まえるものであるから、都市計画が定められていないからといって、直ちに荒川村に都市計画上の問題がないということではない。したがって、被告が審査の過程において荒川村に意見を求めたことは、法の趣旨に何ら反するものではない。

また、平成四年一二月の秩父市議会定例会において、秩父市議会議長あてに四、三七二名にものぼる本件施設の建設反対の請願が提出され、右請願は、同市議会において、平成四年一二月一七日に賛成多数で採択され、荒川村でも、ダオキシンの排出などを理由として、建設反対の要望書が同村長あてに提出された。これによれば、本件施設の建築につき周辺との十分な合意が形成されたということはできない。

ところで、原告は、本件申請書に本件施設から半径三〇〇メートル以内に居住する四一軒のうち三一軒の同意書を添付しており、右同意書には県営住宅つばきの森団地三六軒のうち二七軒の同意書が含まれている。しかし、原告が右同意書を取得したのは、原告が当該県営住宅の居住者と締結していた原告所有地についての駐車場使用契約の破棄を示唆したからであって、原告がその有利な立場を利用し、直近の住民を威圧して当該同意書を取得したことが窺える。そうすると、そもそも直近の住民である当該住民が本心から同意しているのかは、疑問がある。

⑦ なお、原告は、本件施設の公害防止設備等が所定の基準を充たすことを強調するけれども、都市計画とは都市のあるべき姿についての政策論であり、当該設備等が公害防止法令の個々の基準に適合するかどうかということは、都市計画とは本来次元の異なる問題である。そもそも法五一条に該当する建築物の敷地の位置についての都市計画の支障の有無は、当該施設が公害防止法令に適合していることを前提として、判断しなければならない。このように、都市計画の性質に照らすと、設備が個々の技術水準に適合するかどうかという観点だけから立地の適否を論ずるのは、不適当である。

(四) 本件では、前述のとおり地元自治体である秩父市は、道路計画や土地利用など都市計画上の支障を理由として強い反対意見を提出し、本件施設に隣接する荒川村も反対意見を表明している。また、地元の住民団体からも強い反対があった。

被告は、このような都市計画上の支障ありとする地元意見とを尊重し、平成四年七月に現地を直接調査したうえで、前記(三)に述べたように国道一四〇号と二九九号バイパスの立体交差計画、秩父市の土地利用計画との不適合、周辺との合意形成が十分なされていないこと、本件予定地の隣接地に影森グラウンド(影森総合スポーツセンター)が市民の余暇の利用のためにスポーツ施設として整備される計画があるなどの点からみて、本件施設の立地は、都市計画上の支障があると判断されたので、本件処分を行った。

4  争点5について

本件施設の周辺には埼玉三興の処分場及び孔明の処分施設が立地しているが、これらの施設に対する許可と本件許可とではその根拠法が異なっており、したがって、審査事項も異なっている。

すなわち、本件処分は法五一条ただし書に基づくもので、都市計画上の支障の有無が審査されたのに対し、埼玉三興及び孔明の各施設は、もともと法五一条ただし書の許可の対象とはされておらず、産業廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)一四条の許可に基づいて設置されたものである(埼玉三興は産業廃棄物処理業のうちの最終処分業、孔明は同じく中間処分業である。)。右許可は産業廃棄物の処理を業として行う場合に必要なもので、その基準は産業廃棄物を適正に処理するために必要な技術基準を定めたものであって、そもそも都市計画上の支障があるか否かということは、法令の要求する審査事項ではない。

したがって、本件施設についてだけ将来の都市構想との関係が問題にされたという原告の主張には法的な根拠がない。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

法五一条は、その本文において、一定の特殊建築物は、都市計画においてその敷地の位置が決定しているものでなければ新築又は増築してはならないと定め、そのただし書において、特定行政庁が都市計画地方審議会の議を経てその敷地の位置が都市計画上支障がないと認めて許可した場合に新築又は増築する場合においては、この限りでないと定めている。すなわち、右法文によれば、本文において、都市計画においてその敷地の位置が決定していない右のような特殊建築物は新築又は増築が許されないものとされ、ただし書において、特定行政庁が例外的に右特殊建築物の新築又は増築を許可する場合に、その要件として、都市計画地方審議会の議を経ることが定められているのであるから、特定行政庁が許可の要件が備わらないと判断して不許可とする場合には、都市計画地方審議会の議を経る必要がないものと解される。ちなみに、同条がこのような構成を採った理由を検討すると、同条に定める施設は、本来都市計画において定められるべき都市施設であり(都市計画法一一条一項三号、七号)、その施設の性質が周辺環境等に大きな影響を与えうるものであって、都市計画全体の観点から敷地の位置を決定すべきものであることから、同条ただし書に基づいて特定行政庁が当該敷地にその建設を許可しようとする場合には、都市計画地方審議会にあらかじめその影響を調査審議させることとしたものと解される。したがって、同条のこのような趣旨からも、特定行政庁が、当該敷地に右施設を建築することは都市計画上支障があると判断してこれを不許可とする場合には、当該地域の都市計画に影響を与えることはないから、都市計画地方審議会の議を経るまでもないということができる。

よって、都市計画地方審議会の議を経ていないことをもって本件処分が違法であるとする原告の主張は失当である。

二  争点2について

法六条三項は、建築主事が、同条一項の建築確認申請書を受理した場合においては、同項一号から三号までに係るものは二一日以内に、同項四号に係るものは七日以内に、申請にかかる建築物の計画が当該建築物の敷地、構造及び建築整備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定に適合するかを審査して申請者に通知しなければならないと規定している。しかし、右期間についての定めが法六条一項に係る建築確認申請に関するものであることは条文の文言上明らかであって、右条項を法五一条ただし書の許可についても準用する旨の規定はない。また、法五一条ただし書の許可は、申請のあった当該敷地の位置が都市計画上支障がないかどうかを判断するものであって、都市計画全体を考慮して総合的に判断すべきものであるうえ、右許可をする場合には、都市計画地方審議会の議を経ることが要求されているから、その審査の内容・対象及び手続が法六条一項の申請と異なることは明らかである。

したがって、法五一条ただし書の審査において、特定行政庁には法六条三項に定める義務に準じた義務があるとする原告の主張は失当である。

三  争点3について

1  甲五号証によれば、被告は、原告に対し、「建築基準法第五一条の規定に基づく建築許可について(通知)」と題する文書で本件処分を通知し、右文書に本件処分の理由を記載しているところ、その内容は、前記第二の二4(一)のとおりであること、すなわち、法五一条の趣旨及び同条ただし書が特例的許可であること、都市計画決定手続においては関係市町村及び住民の意見を反映させる手続がとられていること、市町村議会の議決は住民総意の意見であることから、法五一条ただし書の許可においてもこれらの意見を尊重しなければならないとしたうえで、本件における計画については、平成五年三月二二日付けで秩父市から本計画に対する回答があり、①市施設への影響及び将来の都市計画を考慮し、また市民の当該施設設置に対する反対の状況からみて本計画に支障があるとしている。また、荒川村からも同年三月二五日付けで回答があり、本計画には支障があるとしている、②秩父市の平成四年一二月市議会において、四三七二名の当該施設の建設反対の請願を賛成多数で採択されている、③秩父市では都市計画審議会に代わる秩父市建設委員協議会において、将来の都市計画上の問題を含め支障があると判断していることを挙げていることが認められる。

そうすると、右文書によれば、地元市町村及び住民の意見の内容としても、本件施設について如何なる都市計画上の支障があるかは何ら具体的に記載されていないから、たとえ事前審査及び本件申請の審査において前記第二の二の3のように地元市町村からはその意見の理由が提出されていたとしても、右文書から看取される被告の本件処分の理由は、地元市町村及び住民に反対意見が存在するということにあるといわざるを得ない。

2 法五一条ただし書に基づく不許可の理由は、後記のように当該施設の敷地の位置が都市計画上支障があることであるから、特定行政庁は、このような都市計画上の支障の有無を調査・確認する方法として地元市町村及び住民の意見を照会することは差し支えなく、あるいはむしろこのような意見照会を行うことが適当である場合もあろうけれども、自ら都市計画上の支障の有無を判断せずに、地元市町村及び住民の意見の結論だけに基づいて右の許可・不許可を決定することは許されない。

しかし、法五一条ただし書に基づく不許可処分について、本件処分当時においては、これに理由を付記すべきものとする規定もなく、また、特別の手続的な保護規定もおかれていない。したがって、被告が不許可通知書に処分理由を記載した場合においても、右記載に法的拘束力があると解すべき根拠はないから、右不許可処分の取消訴訟が提起された場合、当該訴訟において、被告が右処分が適法である理由として、処分通知書に記載した以外の処分理由を主張することも妨げないものと解される。

そこで、本件においても、被告は、本訴において、右通知書における処分理由が地元市町村及び住民に反対意見が存在するということであったとしても、その他の処分理由を主張することも許されるといわなければならない。なお、被告に右のような主張を許しても、被処分者である原告に格別の不利益を与えるものとはいえない。

したがって、本件処分につきこれを取り消すべき違法があるかどうかは、被告が本訴において主張する処分理由を判断して決定すべきであるから、本件処分の理由は単に地元に反対意見が存在するということだけであり、しかも右意見は事実の誤解等に基づくとして、被告の本件処分は裁量権を逸脱して違法であるとの原告の主張は採用することができない。

四  争点4について

1  法五一条は、前記のように、本文において、卸売市場、火葬場又はと蓄場、汚物処理場、ごみ焼却場その他の処理施設の用途に供する建築物は、都市計画においてその敷地が決定されているものでなければ、新築し、又は増築してはならないと規定し、ただし書において、特定行政庁が、都市地方審議会の議を経てその敷地の位置が都市計画上支障がないものと認めて許可した場合には、この建築を許すこととしている。

ところで、法五一条本文に定める特殊建築物は、都市計画法上、原則として都市施設として都市計画において定めるものとされているから(同法一一条一項三号、七号)、法五一条本文は、都市計画法の右規定と符節を合わせるものである。そこで、法五一条本文の趣旨を検討すると、右規定の趣旨は、これらの施設が都市に必要不可欠なものであると同時に、いわゆる嫌忌施設であって周辺の環境に大きな影響を及ぼすおそれがあることに鑑み、都市における供給処理計画、周辺地域の環境維持等の面についても配慮しつつ、都市全体の中で最適の位置が選択されるように、その配置について都市計画上の観点から十分検討し、また、都市計画決定手続を経ることによって周辺住民の意見も十分に反映させようとすることにあると解するのが相当である。

そして、法五一条ただし書は、右のような建築物が都市施設としての位置決定が遅れたり、あるいは、都市計画で決定された敷地の取得が困難となるなどの事情により、決定された位置に設置しがたい場合等もありうることから、例外として、特定行政庁が都市計画地方審議会の議を経てその敷地の位置が都市計画上支障がないと認めて許可した場合という要件を付して、この建築を認めることとしたものということができる。

そうすると、特定行政庁が法五一条ただし書の許可をするかどうかを決定するに当たっては、当該建築物を都市計画において決定する場合と同様に、都市における供給処理計画、周辺環境の維持など、都市計画全体の趣旨を十分検討し、また、周辺住民等の意向も配慮しつつ、当該都市内における右施設の配置についての都市計画上の支障の有無を判断することが予定されているというべきである。

また、法五一条に定める建築物は、その性質上、長期間に渡って使用されることが予定され、設置の費用も多額に上ると考えられるから、一度設置されるとその敷地の位置を容易に変更することができないものであるということができる。したがって、同条ただし書において都市計画上の支障の有無を判断する際には、既に正式に決定された都市計画のみならず、当該市町村の基本構想、基本計画等から看取される将来の発展の動向等に鑑みて、都市計画の全体の趣旨から合理的に予測される支障も考慮の対象に含まれると解すべきである。

2 ところで、法五一条ただし書をみると、これによる許可をするについて、都市計画地方審議会の議を経ること及び特定行政庁が都市計画上支障がないと認めることを要件とするのみで、その具体的な判断基準については規定していない。そこで、特定行政庁が法五一条ただし書に基づく許可の可否を判断するに際しては、右に述べた法の趣旨を総合的に検討して都市計画上の支障の有無を判断すべきであるが、その判断には広範な裁量権が認められていると解される。

したがって、法五一条ただし書に基づく処分については、特定行政庁の判断が、当該裁量権の行使を逸脱したり、これが濫用にわたると認められる等の特段の事情がない限り、違法の問題は生じないというべきである。

3  なお、乙第二〇号証によれば、埼玉県住宅都市部が平成四年九月に作成した都市施設マニュアルにおいて、都市計画法一一条に基づき、汚物処理場、ごみ焼却場及びその他の供給施設又は処理施設、市場、と蓄場、及び火葬場の処理供給施設について、都市施設としてその位置を決定する際の指針が示されており、これによれば、都市計画区域内に設けることを原則とし、風致地区内、景勝地内、第一種住居専用地域、第二種住居専用地域等優良な住宅地には設けないこと、「ごみ焼却場・汚物処理施設」、火葬場、と蓄場との隣接併置は避ける、主搬出入路は、原則として繁華街又は住宅街を通らないこと、半径五〇〇メートル以内の住民等に同意が得られること、接続させる道路については、幅員一二メートル程度が望ましいこと、各施設についての個別事項によりがたい場合は、周辺の住民の生活環境、地域全体の環境保全等について十分留意し、位置選定をすることとされ、また、ごみ焼却場についての個別事項として、ごみの搬入及び焼却後の残滓の処理に便利な場所を選ぶこと、恒風の方向に対して市街地の風上を避けること、市街地及び将来の市街地から原則として五〇〇メートル以上離れた場所を選ぶこと、付近三〇〇メートル以内に学校、病院、住宅街又は公園(都市計画公園第二条第二項五号、六号)がないこととされていることが認められる。

右の基準は、都市計画が農林漁業との健全な調和を図りつつ、健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保すべきこと並びにこのためには適正な制限のもとに土地の合理的な利用が図られるべきことを基本理念として定めるべきとされていること(都市計画法二条)、また、前記1で述べたような右の各処理供給施設の特質からすれば、その設置する敷地の位置についての指針として合理性を有するものということができる。

4  都市計画上の支障について

そこで、被告の主張する本件処分理由について判断する。

(一) 本件土地は、都市計画区域内にあるが、用途地域としては無指定であることは、前記のとおりである。

乙第二号証及び第七号証によれば、本件土地は、秩父市の都市計画における中央地域の最南端の外に位置し、一般市街地(中央地区、影森地区)には含まれておらず、右影森地区のうち本件土地に隣接する部分については住居地域と指定されていること、本件後期基本計画において、中心市街地を取り巻く中央地域は、住宅・商業・工業地域が入り組んでいるため、面的整備を進めながら、良好な環境の保全と用途の純化を図ること、また、都市基盤整備の遅れている影森地区については、土地区画整理事業等の導入により住宅・商業・工業地域として調和のとれた計画的な土地利用を図ることが計画されていることが認められる。

そうすると、本件土地自体は、将来の土地利用について明確には計画されていないが、本件土地に近接する影森地区は、土地区画整理事業等によって、将来的には住宅地域あるいは商業地域等として利用されることが予定されているということができる。

(二) 国道一四〇号及び同二九九号の交差計画について

(1) 乙第一号証及び第二号証によれば、秩父市基本構想における施策の大綱として、幹線道路である国道一四〇号及び同二九九号の整備計画が挙げられていること、秩父市後期基本計画において、国・県への要望事項として、バイパスの建設を含め国道一四〇号及び同二九九号の早期道路改良整備を要望することが計画されていることが認められる。

(2)① 次に、乙第八号証によれば、平成四年三月に埼玉県によって作成された秩父市周辺幹線道路網計画調査報告書(以下「調査報告書」という。)において、秩父市周辺幹線道路網計画調査委員会により国道一四〇号及び同二九九号の整備に関し、概要次のような調査報告がされたことが認められる。

a 右調査は、秩父市周辺地域において、国道一四〇号と同二九九号との交差部分周辺における交通混雑等の道路交通状況を改善することとともに、地域の振興・活性化に寄与し、かつ将来の地域整備や沿道土地利用との調和のとれた幹線道路網計画を策定することを目的とする。

b 幹線道路網体系整備の方針として、国道一四〇号バイパス及び同二九九号バイパスについて、考えられる導入パターンを検討のうえ、当該地域における主要交通流動との対応、主要拠点へのアクセス性、路線の機能と位置づけ、市街地における計画的担保と土木技術などの視点から検討すると、国道一四〇号バイパスについては荒川西岸に高規格タイプを導入するのが、国道二九九号バイパスについては市街地の北側、あるいは南側を迂回する市街地迂回バイパスタイプを導入するのが合理的である。

c 両国道バイパスの交差に関する計画案としては、市街地の南西部で交差させる案及び市街地北西部で交差させる案が考えられ、これを交通処理、拠点へのアクセス、交通特性、都市構造、一般道との取付け、事業規模等を比較検討して総合評価すると、市街地南西部で交差させる案が優れている。

② 右のような調査報告の結果によれば、国道一四〇号バイパス及び国道二九九号バイパスにつき広域幹線道路の整備方針としては、市街地南西部で両バイパスを交差させるのが最も合理的な結論とされていることとなる。

もっとも、前掲乙第八号証によれば、右計画は、将来整備する場合の最良の手段を検討したものにすぎず、右報告書を子細に検討してみても、両バイパスの整備の具体的計画が看取される記載はなく、また、右計画における、最終的な計画図面においても、両バイパスの大まかな位置として、本件土地から約一キロメートル北側の地点で交差する模式図が記載されているのみであることが認められるから、右報告書によって最終的に両国道の交差する位置が正確に決定されたということはできない。

しかし、右①で認定したとおり、秩父市基本構想、秩父市後期基本計画においても、国道一四〇号及び同二九九号の整備、早期改良工事は懸案となっており、埼玉県によっても右のような具体的な調査結果報告がなされていること、道路の整備については既存の道路、橋等の合理的な利用がされるのが通常であるところ、乙第八号証の模式図に示された計画は、国道二九九号について、荒川にかかる巴川橋及び県道小鹿野・影森停車場線が利用される予定のものであることが認められることからすれば、将来的には、右各国道がバイパス化され、本件土地の北側約一キロメートルの地点で交差することは、合理的に予想されるものということができるのであって、その場合には、本件土地に近接する地域の利用状況に変化が生じることも、経験則上、推測されることである。

(三) 影森総合スポーツセンター整備計画について

(1) 前記第二の二2(二)のとおり、本件土地の北側には国有水路(通称湯之沢)を挟んで影森グラウンドがあるところ、乙第二号証及び第二二号証によれば、秩父市においては、広域公園、総合公園、住区基幹公園等の整備、充実を図り、約一〇万平方メートルの広さをもつ荒川河川隣接地の影森グラウンドを計画的に整備し、市民総合スポーツセンターとしての機能を果たせるように事業を推進すること、また、影森グラウンドを運動公園に指定し、都市計画公園として整備する方針であることが認められる。

(2) 次に、乙一〇号証によれば、次の事実が認められる。

秩父市は、本件基本構想の計画体系に位置づけられた施策として、秩父市影森総合スポーツセンター(仮称)計画を立案し、荒川の河川敷の影森グラウンドを改良整備して、レクリエーション施設としても活用される、面積一〇万五四九六平方メートルの市民総合スポーツセンターを設置することを計画している。

右施設の計画は、社会体育と学校体育(小・中・高代表選手)を兼ねた競技ができる総合スポーツセンターとし、競技施設としては、①収容観客数三、五〇〇人程度の陸上競技場兼球技場、②約四、〇〇〇人が収容可能な公認野球場、③五〇メートル競技用プール及び飛び込み用プール、④ソフトボール一面程度の多目的スポーツ広場、⑤馬術練習場、⑥男子九〇メートル五席、女子七〇メートル四席の規模の競技用アーチェリー場、⑦全天候型テニスコート四面、⑧一周約1.2キロメートルのジョギングコース、⑧ローラースケート、サイクリングロードを設置し、競技種目は、野球、サッカー、ホッケー、ラグビー、陸上競技、テニス、馬術、ソフトボール、ハンドボール、水泳等とする。

また、主要施設の管理棟として、陸上競技場管理棟(鉄筋コンクリート三階建て、二、二〇〇平方メートル)、野球場管理棟(鉄筋コンクリート三階建て、一、〇〇〇平方メートル)、プール場・テニス場管理棟(鉄筋コンクリート二階建て、一、六〇〇平方メートル)の建築が予定されている。

(3) そして、乙第二九号証及び第三三号証並びに証人富田英敏の証言によれば、影森グラウンドは、浦山ダム建設工事の残土処理場として水質源開発公団に貸与されていたが、平成九年一二月までに埋め戻され、同公団によって、影森総合スポーツセンター整備計画に沿って、フェンス、バックネット、側溝、水道、路盤工、トイレ、浄化槽、倉庫、サッカーゴールの設置等の工事が行われる予定であり、その後、全体をスポーツ公園として整備する計画であることが認められる。

(4) なお、甲第一一号証及び乙第一五号証の一、二によれば、右影森総合スポーツセンター計画地内の北東部分の一画に、孔明が産業廃棄物処理場を設置していること、右施設の地積は合計一、一八九平方メートルであることが認められる。

しかし、右の孔明の設置する産業廃棄物処理場の敷地の地積は、影森総合スポーツセンター計画地全体の地積の1.1パーセント程度にすぎず、また、右(3)で認定したとおり、影森総合スポーツセンター整備計画に沿って影森グラウンドが整備されてきていることからすれば、孔明が影森総合スポーツセンター計画地内に産業廃棄物処理施設を設置したことをもって、右計画が流動的なものということはできない。

(5) そうすると、本件土地の北側に近接して、将来的には大規模な総合スポーツセンターが設置され、都市計画公園として指定されることが予定されているということができる。

(四) ウォーターフロント計画について

(1) 乙第二号証によれば、本件後期基本計画において、地形的に数多い大小の河川に恵まれているため、この地の利を有効適切に活用し、水辺に親しむ観光資源として河川整備を推進していくことが計画されていることが認められ、また、乙第二一号証、第二六号証及び証人柴田守、同富田英敏の各証言によれば、埼玉県の長期構想である秩父リゾート基本計画において、長尾根重点整備地区は総面積が二、五〇〇ヘクタールで、複合リゾートとして、緑と水に囲まれた自然環境の中で、スポーツ・芸術・文化活動等を通じて、多くの人々との出会い、楽しく語り合うことができるリゾート空間を形成すること、長尾根重点地区のうち、本件土地の荒川対岸に面積三四〇ヘクタールのウォーターフロントゾーンを設定し、荒川とその川岸の自然を活用してオートキャンプ場、釣りセンターやバードサンクチュアリ等の施設を整備する計画であることが認められる。

(2) また、乙第三〇号証によれば、本件土地に近接する荒川の河川敷では、現在においても、行楽時には川遊びの場として、多数の人出があることが認められる。

(五) 以上認定の事実によれば、本件土地の周辺は、秩父市において従前決定された用途地域と、本件基本構想、本件基本計画等における周辺地域の将来の計画を総合すると、影森地域を土地区画整理事業等により市街地として整備し、また、将来的に国道一四〇号及び同二九九号のバイパスを改良整備し、さらに影森総合スポーツセンターを整備して都市計画公園として指定し、本件土地に近接する河川敷にウォーターフロントゾーンを設定してオートキャンプ場、釣りセンターなどを整備すること等を総合的に推進することにより、住居地域、商業地域として活用するばかりでなく、総合スポーツセンターを含む公園及び複合リゾート地域としても発展することが予定されているということができる。

5  原告は、本件土地には既に砕石プラントが設置されていることから無機質な景観を呈しており、また、本件施設を設置するに当たっては景観に配慮できること、本件施設が廃棄物処理法、大気汚染防止法等の公害防止についての規制に適合するものであり、また、本件土地は国道一四〇号線よりもかなり低い位置にあり、国道交差計画による影響を受け得ず、住居地域として発展する可能性もないから、右のような施設が隣接したとしても、都市計画上の支障があるとはいえないと主張する。

しかし、都市計画は、都市の健全な発展と秩序ある整備を図ることを目的とし(都市計画法一条)、健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保し、土地の合理的な利用を図ることを基本理念として定められるべきもの(同法二条)であり、本件施設のような処理供給施設は都市施設として定めるのが原則であることから(同法一一条)、法五一条ただし書における建築の許可については、都市の発展の動向を担うべき都市計画の総合的観点から前記3で述べたような要素を考慮して決定すべきものである。換言すれば、法五一条ただし書の許可の判断に当たっては、当該特殊建築物が公害防止の規制に適合することはいわば当然の前提であり、そのような施設がその設置を計画する当該地域の都市計画にまさしく支障がないかどうかが問われるものである。したがって、単に公害防止についての規制に適合し、また、景観に配慮がなされうることのみをもっては、都市計画上支障がないということはできず、さらに、本件土地自体が住居地域として発展する可能性がないとしても、その周辺地域が住居地域として発展することが予測され、あるいは処理供給施設とは異なる大規模な公共的施設が設置され、並びに複合リゾート地域として整備される等の構想があることは、都市計画上の観点からは看過し得ないものである。そして、前記のように本件土地の周辺は、住居地域あるいは商業地域として活用され、総合スポーツセンターを含む大規模公園及び複合リゾート地域としても発展することが予定あるいは構想されているのであるから、本件土地に大規模な産業廃棄物処理場を建設することにはその敷地の位置に都市計画上の支障があるとした被告の判断は、未だその裁量権の行使に濫用ないし逸脱があったと認めることはできない。

五  争点5について

1  原告は、本件土地の周辺に孔明及び埼玉三興が設置する産業廃棄物処理施設が存在することをもって、本件処分が平等原則に違反すると主張するけれども、仮に右業者らがたとえ廃棄物処理法所定の許可を受けているとしても、これと法五一条ただし書の許可を受けることは、法的に全く別のことであるところ、原告は、右業者らが右各施設の敷地について法五一条ただし書の許可を受けたものであることを何ら主張・立証しないから、原告の右主張は、その前提を欠くものであって、採用することができない。

2  次に、乙第七号証によれば、都市計画法一一条一項三号に定めるごみ焼却場である秩父市環境衛生センターが、同項二号に定める公園である秩父聖地公園に隣接して設置されていることが認められる。

しかし、乙第二号証、第七号証、第八号証、第二二号証及び第二六号証によれば、前認定のような本件土地を含む地域の都市計画及び本件基本計画等と秩父市環境衛生センター周辺のそれとは全く同じではないことが認められるから、秩父市環境衛生センターが設置されていることをもって、直ちに本件処分が平等原則に違反するということはできない。

六  よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官大喜多啓光 裁判官小島浩 裁判官水上周)

別紙<省略>

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